私たちは日常の中で「ゆっくり食べたほうが太りにくい」「食事開始から15〜20分で満腹感が出る」といった話をよく耳にします。でも、こうした言い伝えは、実際に科学的な根拠があるのでしょうか?今回のテーマは、そんな“満腹感が脳に伝わるまでの時間”について、最新の研究を元に紐解いていきます。
満腹感とは何か?まず押さえておきたいのは、満腹感には2つの側面があるということです。
Satiation(食事をやめる満腹感/ 摂食抑制):食事を途中でやめるきっかけになる“満たされた”感覚
Satiety(食後も続く満足感/ 満腹持続感):食後の“しばらくお腹が空かない”状態
今回は「食べている途中で、もう食べられない」と感じる“セイシエーション”の話がメインです。
この感覚は、単に胃がふくらむから起きるわけではありません。消化管から分泌されるホルモンや血中のエネルギー変化、さらには脳内の報酬系の活動など、様々な要因が絡み合って生まれるものです。
食後すぐには満腹感はやってこない
よく言われる「15〜20分で満腹感が脳に届く」という話は、実は完全な“都市伝説”ではありません。
たとえば、サティエチンという物質に注目した研究では、食後にこのホルモンが分泌され、30分以内に脳へ届いて摂食を抑える作用が始まることが示されています。この作用は1時間以内にピークに達し、その後24時間以上持続するという報告もあります(Knoll, 2005)。
また、**GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)**という消化管ホルモンは、食後10〜20分で血中濃度が上昇し、空腹感を抑える方向に働きます。ただし、これは“食事をやめる”引き金というよりも、次の食事までの食欲をコントロールする役割を果たしている可能性が高いとされています(Blundell & Näslund, 1999)。
満腹感は「じわじわ」高まる:心理学的視点
「主観的に感じる満腹感」については、心理物理学的手法を使った研究も存在します。
たとえば、食事中に2分ごとに自分の満腹感を測定してもらった実験では、6分間の食事で満腹度は最大の40%に達することが報告されました。その後も食事を続けることで、徐々に満腹感が増していくことがわかっています(Teghtsoonian et al., 1981)。
このことからも、満腹感は一瞬で感じるものではなく、食べながら段階的に形成されることがわかります。
脳はどう反応する?満腹時の神経活動も興味深い
さらに、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)を使った研究では、満腹になると脳の“報酬系”の活動が低下し、反対に自己制御を司る“前頭前皮質”の活動が高まることが示されました。
つまり、脳内でも「もうこれ以上は食べなくていい」という信号が食後しばらくしてから本格的に現れてくるのです(Thomas et al., 2015)。
ゆっくり食べることの意味
これらの研究を総合してわかるのは、食べ始めてから15〜20分くらいで、満腹を感じるためのホルモンや神経反応が本格化するということです。
つまり、早食いをすると、満腹信号が届く前に食べすぎてしまうリスクが高いということでもあります。
実際、早食いの人は肥満のリスクが高いという研究も多数あります。ゆっくり食べることには、味わいを楽しむだけでなく、体にとっても大きなメリットがあるのです。
まとめ:科学的にも「ゆっくり食べる」が正解だった
・食後10〜20分で満腹感を高めるホルモンが分泌される
・脳の満腹反応は30分以内にピークを迎える
・主観的満腹感は食事中に徐々に上昇する
・脳の自己制御機能は満腹時に強まる
こうした科学的な裏付けにより、「満腹感が脳に届くのに15〜20分かかる」という話は、おおむね正しいといえそうです。
食べすぎを防ぐためにも、食事の時間は最低でも20分以上かけて、しっかり味わいながら食べるのが健康的。次の食事からでも、ぜひ意識してみてはいかがでしょうか?