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便潜血検査について、もう少し詳しくみましょう:なぜ2回行うの?陽性だったら、ポリープや癌は見つかるの?

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健康診断や人間ドック、自治体のがん検診などで、「便潜血検査」を受けたことがある方は多いかと思います。これは、大腸癌をできるだけ早い段階で見つけ出すための、体への負担が少ない、とても手軽で重要な検査です。特に最近は、ヒトの血液だけに反応する「免疫学的便潜血検査」が一般的になっていますね。
 この便潜血検査について、「なぜ2回(2日分)も便を採るんだろう?」「もし陽性って言われたら、ポリープや癌はどのくらいの確率で見つかるんだろう?」といった疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。ここでは、これらの疑問について、もう少し詳しく、分かりやすくお話ししたいと思います。
 
 どうして便は2回、違う日に採る必要があるの?
 
 便潜血検査で、わざわざ面倒だけれど2日分の便をいただくのには、ちゃんとした理由があるんです。それは、大腸の中にひそんでいるポリープや、まだ小さくて症状が出ていない早期の癌というのは、毎日決まって出血しているわけではない、という特徴があるからです。
イメージしてみてください。大腸の壁にできたポリープや癌の表面というのは、デリケートな場合が多いです。そこを、硬さや量、形が日によって違う便が通過する際に、擦れたり圧迫されたりして、ほんの少し出血することがあります。でも、出血するのはその時だけで、次の日には止まっている、なんてことがよくあるんですね。いわば、「間欠的」な出血なんです。
もし、たった1日分の便しか検査しなかったとしたらどうでしょう? 運悪く、病変があるのにその日が出血していなかった日だったら、「陰性」という結果が出てしまい、せっかくの病変を見逃してしまうことになりますよね。これは、検査の「感度」、つまり「病気がある人を正しく陽性と見つけ出す能力」が下がってしまうことにつながります。
そこで、知恵として考え出されたのが、2日分の異なる日の便を検査する方法です。こうすることで、出血している可能性があるタイミングを捉えられる確率がグッと上がります。「この日は出ていなくても、別の日は出血していた」というケースを見つけやすくなるわけです。多くの研究で、2日法は1日法に比べて、早期の癌や、将来癌になるリスクの高い大きなポリープ(進行腺腫といいます)を見つける感度が高いことが示されています。
だから、日本の国が推奨する大腸癌検診などでも、この「2日法」が標準的な方法として採用されているんですね。これは、限りある資源の中で、より多くの大腸の病変を見つけ出すための、とても合理的な工夫なんです。
免疫学的便潜血検査は、人の血液にだけ反応するように作られているので、肉を食べたから陽性になる、といった心配はほとんどありません。普段通りの生活の中で、指定された方法で2日分の便を採っていただければ大丈夫です。
まとめると、便潜血検査を2回行うのは、ポリープや早期癌からの出血が『間欠的』であることを踏まえ、検査の感度を高めて、より確実に病変による出血を見つけ出すためなんです。

 もし便潜血検査が陽性だったら、ポリープは見つかる確率ってどれくらい?
  
 さて、もし便潜血検査の結果が「陽性」だったら、これは「便の中に目に見えないほどの血液が混じっていましたよ」というサインです。決して「あなたは癌です!」という意味ではありません。ただ、出血している原因がどこかにあるはずなので、「念のために詳しく調べましょう」ということになります。この精密検査として、最も推奨されるのが「大腸内視鏡検査(いわゆるカメラの検査)」です。
 では、便潜血陽性という結果が出た方が、実際に大腸内視鏡検査を受けた場合に、ポリープ、特に将来癌になる可能性のある「腺腫」が見つかる確率はどのくらいなのでしょうか?
これまでに行われた数多くの大規模なスクリーニング研究や、たくさんのデータをまとめて解析した報告(信頼できる一次データに基づいたもの)を見てみると、便潜血陽性だった方の内視鏡検査では、かなりの高確率でポリープが見つかっています。
 特に、癌化する可能性のある腺腫全体や、特に要注意とされる「進行腺腫(将来癌になるリスクが高いとされる、大きさが10mm以上だったり、形が悪かったりするタイプの腺腫)」を含めると、便潜血陽性だった方のおよそ3割から5割程度で、これらのポリープが見つかっているという報告が多いんです。
 たとえば、日本の自治体が行っている大腸癌検診の成績を集計・評価した公的な報告などでも、便潜血陽性で精密検査を受けた方の中から、腺腫性ポリープが約3割、さらに進行腺腫が約1割から1割強程度の割合で見つかっている、といったデータが示されています。
 これらの結果が示唆するのは、便潜血検査が単に大腸癌を見つけるだけでなく、癌になる前の段階であるポリープ、中でも将来的なリスクが高い進行腺腫を見つけ出す上でも、非常に有効な手段であるということです。そして、ポリープが見つかれば、内視鏡を使ってその場で切除することが多く、それによって将来、大腸癌になることを予防できる可能性が大きく広がります。だからこそ、便潜血陽性は、癌の可能性を心配するだけでなく、「癌になる前にリスクを取り除くチャンス」と捉えることもできるのです。

では、便潜血陽性で「大腸癌」が見つかる確率は?

 便潜血検査の最大の目標は、やはり大腸癌の早期発見です。では、便潜血検査が陽性だった方が、精密検査である大腸内視鏡検査を受けた場合に、実際に「大腸癌」が見つかる確率はどのくらいなのでしょうか?
 この確率も、検査を受けた方の年齢層や、地域の大腸癌の発生率、使っている検査の種類や陽性の基準、そして精密検査をどれくらいの人がきちんと受けたかなど、色々な要素で少しずつ変わってきます。ですが、全体的な傾向として、免疫学的便潜血検査の2日法で陽性となった方のうち、大腸癌が発見される確率は、多くの研究結果や、国レベルでの大規模な検診データなどから、だいたい3%から10%くらいだと言われています。
これは、検査の「陽性的中度」と呼ばれるもので、「陽性だった方のうち、本当に大腸癌だった人の割合」を示しています。例えば、便潜血陽性だった方が100人いたら、そのうちの約3人から10人の方に大腸癌が見つかる、ということです。
この確率は、無症状の、つまり特に気になる症状がない方を対象としたスクリーニング検査で、病気(この場合は大腸癌)を見つけ出す確率としては、十分に高いと考えられています。残りの方々(90%以上)は、ポリープや、痔、大腸憩室からの出血、炎症など、大腸癌以外の原因で出血しているか、あるいは検査では出血の原因が特定できなかったケースです。
 ですが、この3%から10%という確率は、見逃してしまうと将来的に命に関わる可能性のある大腸癌を、まだ症状が出ていない比較的早期の段階で発見できる、非常に貴重な機会を与えてくれます。実際、便潜血検査で見つかる大腸癌は、早期の段階で見つかることが多いため、手術や治療によって治る可能性が、症状が出てから見つかる進行癌に比べて格段に高い傾向があります。
 ですから、便潜血陽性という結果は、決して軽視せず、「大腸に何らかの病変があるかもしれない、詳しく調べてみましょう」という、体からの大切なメッセージとして受け取っていただきたいと思います。そして、たとえ癌が見つかる確率が100%ではないとしても、この確率のために精密検査を受ける価値は非常に大きいと言えるでしょう。早期に発見できれば、それだけ助かる可能性が高まるからです。
 
これらの確率って、何で変わるの? 他に出血の原因はあるの?

 先ほどお話ししたポリープや癌が見つかる確率は、あくまで多くの人を対象にした場合の「平均的な数字」です。個人個人を見ると、その方が持っているリスク要因によって確率は多少変わってきます。
 例えば、年齢が高くなるほど、あるいは男性の方が、残念ながら大腸癌や腺腫が見つかる確率は一般的に上がると言われています。また、ご家族の中に大腸癌になった方がいる、といった大腸癌の家族歴がある方も、リスクが高まるため、陽性時の発見確率も高くなる傾向があります。さらに、使っている検査方法の種類や、陽性か陰性かを分ける基準値、そして精密検査である内視鏡検査をどれだけ丁寧に行うか、といった点も、発見確率に影響を与えます。
そして、便潜血検査が陽性になる原因は、大腸のポリープや癌だけではありません。大腸よりもお尻に近い部分や、その他の消化管の病気でも便に血が混じることがあり、便潜血陽性になるケースはよくあります。
• 痔(じ): いぼ痔や切れ痔など、肛門の周りの病気ですが、排便時に出血して便に付着し、便潜血陽性の原因として最も多いものの一つです。多くの場合は心配いりませんが、やはり精密検査で確認が必要です。
• 大腸憩室(だいちょうけいしつ)からの出血: 大腸の壁の一部がポケットのように膨らんだ「憩室」から、ときに出血することがあります。特に高齢者でよく見られます。
• 炎症性腸疾患: 潰瘍性大腸炎やクローン病といった、大腸に慢性的な炎症が起きる病気でも、出血を伴うことがあります。
• その他: 胃や十二指腸など、大腸よりも上の部分からの出血が便として出てくることも稀にあります。また、一部の飲み薬(例えば、痛み止めなど)が原因で消化管から出血することもあります。
 このように、便潜血陽性イコール必ず大腸癌、ではないんです。痔など、比較的よくある病気が原因である可能性も十分に考えられます。だからこそ、「陽性だ…どうしよう…」と過度に心配しすぎる必要はありません。大切なのは、「出血の原因をきちんと確かめましょう」ということです。
 
 便潜血陽性だった… さあ、どうすればいい?精密検査の重要性 

 便潜血検査は、あくまで「大腸に何か異常があるかもしれないから、詳しく調べてみましょうか?」という『ふるい分け』の検査です。陽性という結果は、「精密検査を受けてくださいね」という、体からの明確な『お知らせ(信号)』だと考えてください。この信号を受け取ったのに、そのまま放置してしまうのは、せっかく受けた検査の意味がなくなってしまうことになり、非常にもったいないです。
残念ながら、便潜血が陽性だったにも関わらず、忙しいから、怖いから、面倒だから…といった理由で、精密検査である大腸内視鏡検査を受けない方が一定数いらっしゃいます。これは、本来なら早期に見つけられて治療できたはずの癌や進行腺腫を見逃してしまう、という最も避けたい事態につながってしまいます。
 便潜血検査を有効に活用し、大腸癌で亡くなる方を減らすためには、陽性という結果を受け取った方が、迷わず、そしてできるだけ早く精密検査を受けていただくことが何よりも重要なんです。大腸内視鏡検査では、専門の医師が大腸の内部を直接、隅々まで観察します。出血の原因になっている病変がどこにあるのかを特定できますし、もしポリープが見つかれば、多くの場合、その場で切除することができます。早期の癌が見つかった場合でも、内視鏡での切除で済むこともありますし、たとえ手術が必要でも、早期であれば体への負担も少なく、その後の回復も早い傾向にあります。
 便潜血陽性という結果に必要以上に不安を感じるのではなく、「早期発見・早期治療に繋がるチャンスがやってきた!」と前向きに捉え、しっかりと精密検査を受けていただくことが、ご自身の大腸の健康を守るために、そして安心を得るために、最も確実で賢明な一歩です。

まとめ
 
 便潜血検査で2日分の便を採取するのは、ポリープや早期癌からの『間欠的な出血』を見逃さず、検査の『感度』を高めて病変を見つけやすくするためです。
 そして、もし便潜血検査が「陽性」という結果だった場合、それは「便に血液が混じっていました。詳しく調べてみましょう」というサインです。精密検査を受けると、癌になる可能性のある腺腫性ポリープがだいたい3~5割程度、そして大腸癌がだいたい3%~10%くらいの確率で見つかることが、これまでの多くのデータから分かっています。
 便潜血陽性は、精密検査が必要なお知らせであり、決して怖い結果ではありません。このお知らせを受け止めて、しっかりと精密検査を受けていただくことが、ご自身の大腸の健康をチェックし、万が一病変が見つかっても早期に対応できる、最善の方法です。この検査と精密検査の組み合わせこそが、大腸癌による辛い状況を避けるために、私たちができる効果的な対策なのです。

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