
こんにちは。院長の沖田です。
突然ですが、皆さんは健康診断の結果を見て「空腹時血糖値が正常だから、糖尿病は大丈夫」と安心していませんか?
実は、空腹時の血糖値だけでは見抜けない「隠れ糖尿病」や、今は正常でも数年後に発症するリスクが高い「糖尿病予備軍」が、日本人には非常に多いのです。
今回は、当院が力を入れている精密検査「75g経口ブドウ糖負荷試験(75g OGTT)」について、少し詳しく、でも分かりやすくお話しします。
この検査は、単に糖尿病かどうかを白黒つけるだけのものではありません。あなたの体の中で起きている「代謝の変化」を地図のように広げ、5年後、10年後の未来の健康を守るための検査なのです。
▼ 「血糖値が高め」「親族に糖尿病がいる」など気になる方はこちら ▼
この記事の結論:75g OGTTとは?
結論:
当院では、75g OGTTを「糖尿病かどうか」を調べる検査というだけでなく、これから数年〜10年先の糖尿病・動脈硬化・認知症リスクまで見通すための“代謝ドック”として位置づけています。
理由:
空腹時だけでなく、サイダー(ブドウ糖)を飲んだ後の30分・1時間・2時間の血糖とインスリンを連続して追いかけることで、「インスリンが足りていないのか」「効きが悪いのか」「まだ正常だけど将来リスクが高いのか」を立体的に評価できるからです。
補足:
特に日本人は「インスリン分泌不足」タイプが多く、通常の健診だけでは見逃されがちです。当院では1時間値を含む詳細な解析を行い、「今」と「未来」の両方を診ることを大切にしています。
目次(クリックで知りたい項目へ)
1. 75g OGTTはどんな検査?当院ではどんな人におすすめ?
75g OGTTとは、一言で言えば「膵臓(すいぞう)の体力テスト」です。
10時間以上絶食した空腹の状態で、75gのブドウ糖(甘いサイダーのような液体)を飲み、その後の血糖値やインスリンがどう変化するかを調べます。
当院ではこんな方に特におすすめしています
- ✅ 健診で「血糖が少し高め」「HbA1cが5.6〜6.4%(境界型)」と言われた方
- ✅ ご家族に糖尿病・心筋梗塞・脳梗塞・脂肪肝の人が多い方
- ✅ 「痩せているのに血糖が高い」と言われたことがある方(日本人に多いタイプ!)
- ✅ 胃の手術歴があり、食後の動悸や冷や汗が気になる方
- ✅ 中年以降で「もの忘れ」が気になり、将来の認知症リスクを減らしたい方
「まだ糖尿病じゃないから大丈夫」と思っていても、実は水面下で動脈硬化が進んでいることがあります。当院では、単に病名を付けるためではなく、「5年後、10年後のリスク」を患者さんと共有し、一緒に予防策を立てるためにこの検査を重視しています。
2. 糖尿病診断の「公式基準」と「当院の深読みポイント」
まずは、日本糖尿病学会などが定めている公式な基準を見てみましょう。当院でも当然この基準に基づき診断を行いますが、それだけで終わらせないのが当院のOGTTです。
公式な判定区分(成人)
| 判定区分 | 空腹時血糖 (mg/dL) | OGTT 2時間値 (mg/dL) |
|---|---|---|
| 正常型 (NGT) | 110未満 | 140未満 |
| 境界型 (IGT/IFG) | 110〜125 | 140〜199 |
| 糖尿病型 | 126以上 | 200以上 |
※上記は代表的な目安です。実際の診断はHbA1cや症状などを組み合わせて総合的に行います。

当院が重視する「プラスアルファ」の視点
公式基準は「空腹時」と「2時間後」だけで判定しますが、当院では以下のポイントを見逃しません。
- 1時間値が180mg/dL以上ないか?
→ たとえ2時間値が正常でも、1時間値が高い人は「将来リスク高め」です。 - 30分後のインスリン反応は十分か?
→ 血糖が急上昇しているのにインスリンが出ていない場合、「分泌不足タイプ」と判断します。 - インスリンが出すぎていないか?
→ 血糖値が高いときにインスリンも大量に出ているなら、「効きが悪い(抵抗性)」タイプです。
3. ここまで分かる!75g OGTTで判明する「8つの臨床インサイト」
ここからは、少し専門的になりますが、75g OGTTを行うことで分かる「体の深い情報」を8つご紹介します。これが、当院がこの検査をおすすめする最大の理由です。
3-1. 初期インスリン分泌低下の早期発見
健康な人は、糖が入ってくると素早くインスリンが分泌されます(初期分泌)。
OGTTで「30分値の血糖が高いのに、インスリンの上昇が鈍い」場合、膵β細胞の初期反応が落ちているサインです。
HbA1cが正常でも、このパターンの方は将来糖尿病になりやすい傾向にあります。早期に見つければ、膵臓を休ませる食事や薬で守ることができます。
3-2. 1時間高血糖(1h-PG)と動脈硬化リスク
空腹時と2時間値が正常でも、1時間値が180mg/dL以上(あるいは155mg/dL以上)あると、将来の糖尿病や心血管疾患のリスクが高いことが分かっています。
1時間の値は健診では測りませんが、当院では「血管にとって非常に重要な数字」と考え、必ず測定しています。

3-3. インスリン抵抗性型 vs 分泌不足型
同じ「血糖値が高い」でも、タイプによって対策は真逆になります。
- 抵抗性型(インスリンが大量に出ているが効かない)
→ 減量、運動、SGLT2阻害薬などが効果的。 - 分泌不足型(インスリンがあまり出ていない)
→ 日本人に多いタイプ。膵臓を刺激しすぎない薬(DPP-4阻害薬など)や、食事の工夫が重要。
これをOGTTで見極めることで、「あなたに一番効く治療」を最初から選びやすくなります。

3-4. 「検診は正常」でもリスクが高い NGT-high
専門用語で「NGT-high」と呼ばれる状態があります。これは「診断基準上は正常(Normal)だけど、1時間値が高く、リスクが高い群」のことです。
当院では、患者さんに「今は崖から落ちてはいませんが、崖の縁ギリギリに立っています」とお伝えし、この段階での生活習慣改善を強くおすすめしています。

3-5. 胃切除後・ダンピング症候群への活用
胃の手術後の方で、食後の不調がある場合にもOGTTは役立ちます。
- 食後すぐの動悸・冷や汗 → 早期ダンピング
- 2〜3時間後のふらつき・強い空腹感 → 後期ダンピング(低血糖)
これらをグラフで可視化し、食事の回数や内容を調整する手がかりにします。
3-6. メトホルミンなど早期薬物介入の判断
「糖尿病予備軍」の段階でも、リスクが非常に高い場合、海外ではメトホルミンなどの薬を少量開始することがあります。
当院でも、ご本人の「本気で予防したい」という希望とリスクレベルを照らし合わせ、発症を待たずに予防的介入を検討する材料としています。
3-7. 肝インスリン抵抗性・内臓脂肪・脂肪肝リスク
OGTTの結果パターンは、肝臓の状態も反映します。
1時間高血糖+高インスリン血症が見られる場合、「脂肪肝(NAFLD/MASLD)」が隠れていることが多く、肝臓と血管を同時に守るケアが必要になります。
3-8. 認知症リスクと食後高血糖
最近の研究では、食後の高血糖スパイクが脳血管へのダメージや、アルツハイマー病のリスク上昇に関連することが示唆されています。
「血糖コントロールは脳のアンチエイジング」という視点からも、OGTTによる評価は意義があります。
「自分のリスクを詳しく知りたい」と思ったら
まずは一度、ご相談ください。
4. 検査の流れと、結果を見るときのポイント
「大変な検査なのかな?」と不安にならないよう、当院での流れをご説明します。
🏥 当院での検査ステップ
- 事前診察・予約
検査の目的を確認し、安全に実施できるかチェックします。 - 前日の準備
夕食後は10時間以上の絶食をお願いします(お水・お茶はOK)。激しい運動や深酒は控えてください。 - 検査当日(所要時間:約2時間半)
朝食抜きで来院。
① 空腹時採血
② ブドウ糖75g(サイダー)を飲む
③ 30分後・1時間後・2時間後に採血
※検査中は院内で本を読んだりして安静に過ごしていただきます。 - 結果説明
後日(または当日)、グラフを見ながら詳しく解説します。
結果説明の際、当院では患者さんのデータをグラフ化してお見せしています。
「あなたの曲線はここの山が高いから、少し炭水化物を減らすだけで改善しやすいですよ」といった具体的なアドバイスができるのが強みです。
5. 受けるメリット・デメリットと当院からのメッセージ
メリット
- 未来のリスク(糖尿病、心筋梗塞、認知症など)を早期に発見できる。
- 自分の体質(インスリンが出ないのか、効かないのか)が分かり、無駄のない対策ができる。
- 「数値」として現状を見ることで、生活改善のモチベーションになる。
デメリット・注意点
- 拘束時間が長い(約2時間半)。
- 甘いサイダーを飲むため、稀に気分が悪くなることがある。
- 心臓病や重度の糖尿病がある方は実施できない場合がある。
この検査は「悪いところを見つけて落ち込むため」のものではありません。
「今のうちに軌道修正すれば、将来の大きな病気を防げるチャンス」を見つけるための検査です。
結果が悪くても大丈夫。そこからどう守っていくか、私たちが全力でサポートします。
6. よくある質問Q&A
外来でよくいただく質問をまとめました。
- Q1. 健康診断では「異常なし」でしたが、それでも受ける意味はありますか?
- A. はい、あります。
一般的な健診では空腹時血糖とHbA1cしか測らないことが多く、「食後だけ血糖が上がるタイプ」や「NGT-high(正常高値)」は見逃されてしまいます。ご家族に糖尿病の方がいる場合などは、一度チェックすることをお勧めします。 - Q2. どのくらいの頻度で受ければいいですか?
- A. リスクによりますが、1〜3年ごとが目安です。
すでに境界型の方や脂肪肝がある方は1〜2年ごと、リスクチェック目的の方は3年ごと程度をおすすめしています。毎年の健診結果と合わせて判断します。 - Q3. 糖尿病型と言われたら、すぐに薬を飲まないといけませんか?
- A. 必ずしもすぐ薬とは限りません。
まずは食事・運動・睡眠の見直しから始めます。ただし、数値がかなり高い場合やご本人が早期治療を希望される場合は、膵臓を守るために早めに薬を使うこともあります。「薬か生活習慣か」ではなく、両方をうまく組み合わせていきましょう。 - Q4. 75gのブドウ糖を飲むのが不安です。
- A. 安全第一で行います。
多くの方は問題ありませんが、体調がすぐれない時や、過去に胃の手術を受けた方などは慎重に判断します。検査中に気分が悪くなったら、すぐにスタッフへお声がけください。横になって休める体制を整えています。
7. ちょっとマニアックなトリビア
診察室で話すと「へぇ〜」と言われる豆知識です。
A. 世界共通のルールだからです。体重や体格が違っても、世界中でデータを比較できるようにWHOなどが「75g」と決めました。ちなみにカロリーにすると約300kcal。おにぎり1.5個分、またはショートケーキ1個分くらいの糖質量です。
A. 怖い話ですが、一部の大規模研究では事実です。1時間値が170〜180mg/dLを超えると、今は糖尿病でなくても、将来の死亡リスクや心血管イベントのリスクが上がると報告されています。だからこそ、当院では1時間値を無視しません。
8. まとめ:未来の健康地図を手に入れよう
長くなりましたが、75g OGTTについてお話ししました。
この検査は、単なる「糖尿病チェック」ではありません。
あなたの体が糖分をどう処理しているかを知り、未来の健康を守るための「代謝地図」を手に入れる検査です。
- 健診結果は正常だけど、なんとなく不安がある方
- 家族のためにも、長く健康でいたい方
- 自分の体質に合ったダイエットや予防法を知りたい方
ぜひ一度、当院にご相談ください。
検査結果という「地図」を見ながら、あなたに最適な健康へのルートを一緒に探しましょう。
この記事は、日本消化器内視鏡学会専門医,日本老年医学会専門医 沖田英明(おきた内科クリニック院長)が監修しています。
参考文献・一次資料:
1. American Diabetes Association. Standards of Medical Care in Diabetes – Diagnosis and Classification of Diabetes. Diabetes Care.
2. 日本糖尿病学会. 糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告.
3. Tanaka K, et al. One-hour post-load hyperglycemia and atherosclerosis risk. Endocr J.
4. International Diabetes Federation. Position statement on 1-hour post-load plasma glucose.
5. Yang C, et al. Atherogenic lipid parameters in people with NGT and elevated 1-h PG. Cardiovasc Diabetol.
6. Ohara T, et al. Post-load glucose and dementia risk in Japanese elderly.
7. International consensus on dumping syndrome and OGTT-based evaluation.




